距離。     1


昼食の後片付けを終え、さて一服するかと昼下がりの甲板に出たサンジは、そこで珍しく鍛錬をしていないゾロを見つけて、思わず目を見張った。


しかも、昼寝をしているわけでもない。
ちゃんと起きている。
甲板の中央辺りに胡坐をかいて座っている。
しかも、他のクルーたちと会話なんかしていたりして。


珍しい。明日は雨か? いや、明日まで待たずに今すぐ雨かも?


などと思いながら、サンジは煙草をふかしながら、その珍しい光景を見ていた。


ゾロのそばには、チョッパーとウソップ、そしてフランキーの姿がある。
話しているのは主にチョッパーとウソップのようだが、ゾロもフランキーも相槌を打ったり口を挟んだりしながら楽しくおしゃべりに興じているように見えた。


「でも、やっぱりすごいぞ、ゾロは!」

ちょっと興奮したようなチョッパーの声が、ラウンジの扉の前に立っているサンジのところまで聞こえてきた。


「そんな短期間で結果が出るって、やっぱりすごいと思うぞ、オレは!」

「まあ、俺様ほどじゃないだろうけどな。なにせ俺様は-------------」

「確かに、おめぇは別に計画的に鍛えようとしてるって風じゃねえ割りに、ちゃんと結果出てるってあたりはすげえよなあ。」

「----------って、俺の話は無視かよっ!」


どうやら話題の中心がゾロらしいと伝わってきて、サンジはそれにも驚く。
もちろん、ゾロだって仲間づきあいが悪いというわけではない。
どちらかというと普段は一日中忙しくしているサンジよりも、年下のクルーたちや遊びたくて仕方ない大人たちの相手をしているくらいだろう。
けれどそれはあくまでも「相手をしてやっている」というスタンスのもので、ゾロ自身が仲間たちの輪の中心になっているというのはすごく珍しいようにサンジは思った。

「どうやったら、そんなに強くなれるのかなあ。」

チョッパーが感心するような羨むような、そんな声を出す。

「それは俺も思うね。何をどうやったら、あんな重いもん、持ち上げたりぶん回したりできんのかってな。」

「俺だってあれくらいできるぜ。」

なにせ俺様はスーパーだからな!と意味なくポーズを決めるフランキーに、チョッパーが笑い。ウソップが突っ込む。

「いやいやいや、あんたの強さはちょっとちがうだろ。鍛えた強さってより、作った強さってか?ま、作れんのもすげえけどな。」

「だろう?」

ふんっ!とさらに得意げにポーズを決めるフランキーの様子を見て、チョッパーはさらに笑い転げている。

少しはなれたところからその様子を見ていたサンジも、思わず笑みを浮かべた。
このところ穏やかな航海が続いているので、こんな風に屈託なく笑いあっていられるのだ。

色々あって、自分たちはちょっとは名の通った海賊団になってしまった。
賞金額もあがる一方で海軍はうるさいし、正直「挑戦者」も後を絶たない現状だ。
こんな風に笑いあってくつろいでいても、いつ襲撃にあってもおかしくなかったりする毎日。

でも、信頼できる仲間たちとこんな時間も過ごせるから、今でもこの航海を続けていられるんだろうなあ・・・なんて、
サンジにしてはしんみりと優しい感想を抱きながら、ぼんやりと煙草の煙を吐き出した。

甲板のチョッパーとウソップは、いつの間にかフランキーの「強さ」に夢中になっている。
あちこち「改造」されたフランキーの身体は、船医として人の身体に興味があるチョッパーにとっても、そしてなにより発明が好きなウソップにとっても、さぞ面白いことだらけなのだろう。
フランキーのほうも年下の仲間たちから感心するような興味津々な眼差しを向けられて悪い気はしないらしい。

「なあなあ。触ってもいいか?」

チョッパーがきらきらした目をフランキーに向けている。
どうやら改造された部分に触ってみたいらしい。

「おうっ。いいぜ、ドクター。」

上機嫌で笑いあいながら、ここはどうなって、こっちはこうなんだ、などといいながら、チョッパーもウソップも好きなようにフランキーの身体のあちこちを調べ始めている。
チョッパーの蹄が改造された部分に当たるのか、時折「コツン」と硬いような音が聞こえるのがおかしいと、サンジはまたちょっと笑った。


人の体の立てる音じゃねえだろ、それ。


どんなに鍛え上げられた肉体だって、あんな硬い音を立てたりはしない。
そうだ、暇さえあれば鍛錬しかないようなあの筋肉の塊みたいな野郎だって、基本は人の身体なんだから触ってみれば弾力のある堅さに違いない。

そんなことを思って、ふとゾロに視線を向ける。

いつの間にか自分からフランキーへと興味を移して盛り上がっている年下のクルーたちを見ながら、ゾロもちょっと笑っていた。
その笑い顔に、サンジはちょっとうろたえる。
そんな「普通」な顔して笑うとは思ってなかったのだ。

いや、ゾロだって笑うということくらいは知っているけれど、しかし、あんな、笑顔で見守る、みたいな顔をするなんて知らなかった気がする。

あんな風に穏やかな空気をまとうこともあるんだ、と思って。
サンジは思わずゾロの横顔を見つめ続けた。





                                        〜 「距離。 2 」 へ 〜
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コックさんから見た、「知らなかったゾロの一面」みたいな・・・。